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1「水性・ミッドナイト」(Spring)

滝谷(タキヤ):栂井栄人 | 苑宮玲(ソノ/そのみやれい):黒崎キリト

雨が降ると思い出す。十年ほど前の、中学時代の、あの日の事を。
新社会人になって、慣れない生活にぐったりしている滝谷の元に、死んだはずの苑宮玲が訪れる。
彼と最後の別れになったあの雨の放課後、無理やりにでも自分の傘を貸していたら。
恥ずかしさなんてそんな事どうでもよくて、無理やりにでも一緒の傘で帰っていたら。
自分が一緒に帰って、歩道側に立っていたら。もう少し学校に残っていたら。
そうすれば、トラックの運転手から目視できていたかもしれない。
代わりに死んだのは自分で、ソノは生きたかもしれない。湧き出る後悔で、タキヤの時は止まったまま。

しにたいけど怖い、じしょう行為は怖い、せいしんあんていざいも、保守的な強迫観念で無理。
けれども、何もかも分かっていたソノは、最後の別れを告げる。
これからお前には素晴らしい未来が待っているのだから、自分の事は忘れて、元気に頑張ってほしいと。
夢枕だったのか、現実だったのか。ソノの希望通り、その夜の事はタキヤの記憶には残らなかった。
苑宮玲への記憶は、涙の代わりに少しも流れることなく、脳にこびりついたままだけれど。

​表-四季-:奇跡の夜/裏-死期-:心霊現象

(*チラ裏覚書)

なんとなく、そうすぐには連絡のとれない青春時代を送っていたような、レトロゲームと古い扇風機、

すこし古びた色合いの壁などのイメージがありました。調べたら、たぶん昭和五十七年生まれくらい。

ガラケー普及や、SFCブーム……黒電話とまではいかない。でも祖父祖母の家にはありそうな時代。

此れは二〇〇四年の夜のお話。然らば、タキヤは二〇一九年で三十七歳。のこり半世紀強ほど生きてゆく。

一世紀近くも生きて、たかだか二年にも満たない淡い思ひ出を、胸にたいせつに秘めてゆく。

普通は「嗚呼、そんなこともあったな……」と、月日とともにしたたりて水に流れてゆく。

表向きタキヤの純愛の裏、その二年が狂おしい、ソノの執着の呪詛だと思いながら書きました。

つれていかないけど、守護霊でもないけど、青い春に憑依されちゃった系男子のタキヤ。

ソノは嘘つきでもない。裏表があるわけでもない。思っていることは本当。ことばも、こころも真実。

けれども、願いはうらはら。中学生だもん。タキヤは気が付かない。そこが好きなんでしょう。

とどのつまり、「ひとりはさみしい。はやくしんでくれないかなあ」。

2「ラストサマーストーン」(Summer)

空野煌(ソラノヒカリ):來香滄 | 木更輝星(キサラキラセ):美藤秀吉 |Kyouso-sama:黒崎キリト

三日前まで顔も、名前も、何もかも知らない、赤の他人だったヒカリとキラセの南国バカンス。
唯一の接点は同世代というだけで、性格が真逆の二人は会話もテンションも噛み合わない。
それでも、ヒカリはキラセの明るさに救われ、キラセはヒカリの存在に救われ、
そうして二人いっしょに最初で最後の夏を迎える。二人の生きるいまは、冬だというのに。
南国のスイッチを切れば、現実世界では、明日地球の滅亡を迎えるという。
もちろん、海も無い。飛行機も飛んでいない。ショップなんてものは強盗にあって壊滅状態。
混乱の中、ヒカリは、逃げ込んだビルの地下で気がふれた人間に殺されそうになる。
そこにたまたまいたキラセは、正当防衛といえど、結果的にヒカリを庇い人を殺めてしまう。
疑似夏は太陽光線。ストーンは隕石。隕石の熱。こいねがう高校生二人の、最期の白昼夢。
もし未来があるのなら、二人はきっと死ぬまでこの三日間の事を称えあう親友であっただろうに。
ヒカリの字は煌めき、キラセも輝き、消える前のともしび。キラキラに合わせて所謂キラキラネーム。
※電波状況や人間が耐えられる太陽光など、物理学・天文学的な事はスルーでお願いします。

​表-四季-:希望/裏-死期-:絶望

(*チラ裏覚書)

地球滅亡という、不謹慎極まりない設定がとても好きで好きで……。現実にはノーセンキューで……。

アメリカ映画のような爆発的なものや、主人公が力を得て滅亡を防ぐのも大好きなのですが、

ヒカリとキラセのような、一般民間人で、なにひとつの力も影響もない、小さな空間も大好きです。

死ぬ年齢でもなく、無慈悲につきつけられる目前の終わり。めっちゃ怖い。

とても明るくいえば、小学生の時のクラスごとの注射の待ち時間です。隣のクラスのざわめき。

避けたいけれど避けられない、いつかくるその瞬間。子どもなりに理不尽にも覚悟を決めるやつ。

この二人には、ほかの子と違って、恋愛感情らしいものも、ゆき過ぎた友愛も一切ありません。

なのに、一瞬のキスをする。逆に。普通に生活していたらタイプが違いすぎて友達にもならなそうなのに。

逆に、逆に。大予言が的中した世界がそうさせる、不均衡な思春期のただの雨やどり的な好奇心。

キャストさんとお話したのですが、ヒカリとキラセの終わる前の白昼夢かもしれないし、もしかしたら

この世界はもう既に終わっていて、夏が去った後の彼らの世界の残留思念なのかもしれません。

3「終わらない」(Fall)

美影(ミカゲ):黒崎キリト | 拯(スクイ):來香滄 | キンジョノヒト:アリア

記憶の曖昧な日々が続く美影。その事に不満をいだく、つかめない存在の拯。
よくわからない、けれども一見不快に感じそうな距離の拯のことも、別に嫌悪ではない。
彼の言動で徐々に思い出す、繰り返す時間と蘇り積み合う記憶。未熟な二人の深くなる共依存。
今度こそは、相手の事を忘れない。美影は拯との約束を果たすため、刹那の選択をループする。
トンネル=先の見えないまっくらな穴に落ちていく=こい(恋・故意)に落ちる。
Fall(落ちる)とFall(秋)。美影は御影の意。拯も字の通り、おちたものをすくい上げる意。
美影のおちた先は並行世界だったのか、この世ではなかったのか、夢なのか、こいなのか、なんなのか。
拯の目線にあわせれば、美影もまた、迷宮のように出口の見えない存在。
お互いに縛られ、二人で完結した終わらないうつくしいかげの世界はとてもすくいが無い。
食べ物は古事記の「黄泉戸喫(よもつへぐい)」、トンネルは都市伝説の「きさらぎ駅」がネタ元。
たぶんこの二人がいちばん病みて、宿命めいた環境の分いちばん危険。

表-四季-:二人の世界/裏-死期-:殺し合い

(*チラ裏覚書)

依存のこもった好意の先だけが、気持ちよくて心地よくて、他には何も見えないトンネルの中状態。

二人とも「(自分の孤独と苦しみを癒す為に)相手がほしい」という、非常に子どもで自己中心的な

ものの考えしかできないので、その好意がいずれ欲深く周りが暗くて見えない支配の愛憎に変化してゆく。

もう何度も記憶があるスクイは、うんざりして「嫌い」と思った果て、すでに殺意を積らせていた。

精神的苦痛のスクイの方がもう先に狂い始めていて、彼の飴には微量の毒が。

​はやく食べて」⇢「はやく(毒入り飴を食べて)しんで」=「そうしたらこの繰り返しが終わる」

けれども違う世界のミカゲには、スクイにとっての致死量ではすぐに命を落とさない。

そのことにイライラするけれど、真相をダイレクトに口にはできない。

スクイの血肉を口にしたことで相手の思考に気が付きはじめたミカゲは、ラストでカッターナイフ。

スクイの処に行く=殺される前にやり返しに行く。殺意が情に勝った瞬間にミカゲに記憶に残りました。

万が一ミカゲがスクイの世界を選んだとして、生まれた世界を永遠に捨てるという物理的悲惨であり、

スクイはひたすらに記憶があり、それが無いミカゲを永遠に待つだけの精神的悲惨。

住む世界が違う出会ってはならない二人は、大人にもなれないのでバッドエンドが待っている。

どちらかが死ねば繰り返しは強制的に終わるので、自分の主張ばかりな彼らはいずれ殺しあう運命にある。

水到りて渠成る。ミカゲかスクイかどちらかを墓穴に堕とすまで、この繰り返しが終わらない。

4「Flow Down Garden」(Winter)

水崎綿子(ミズサキ/みずさきわたこ):笑兵衛 | 千冬(チフユ):栂井栄人

水崎綿子は、仕事の中で、中・高と同級生だった千冬と久しぶりに出会う。

彼女の事を、彼はうっすらとしか覚えていない。それもその筈、出会ったのは本当に久しぶりなのだ。

千冬に告白して、あっさり振られた彼女には、消したい記憶かもしれないけれど。

仕事中の彼女には、ひっきりなしに電話がかかる。彼との久しぶりの会話中にも、何度も、何度も。

そうして、千冬が言われたまま連れてこられたのは、あの懐かしくも忌まわしい交差点。

何度も響くコール。降りやまない雨。そういえばいつもより体も軽い。自分がたどり着く先は……。

雨がやむ。あの日へ対しての、千冬の悲しみが、やっと涙とともに流れ落ちた(Flow Down)。

「千冬君、大往生したわね。あいつ、待ちくたびれているわよ」

彼女の仕事はこれで終わりだ。いつまで経っても子どもじみた同級生たちに、あたたかい溜息をついた。

千冬のフルネームは、千冬滝谷(ちふゆたきや)。これは、タキヤの死後の物語。

ながく生きた千の冬が終わり、谷に満ちるほどの滝のような涙もやがて蒸発する。

水崎綿子は、所謂水先案内人の仕事をしている。綿は、ふわふわの雲=空の上の人=故人。

Gardenは、園(ソノ)。今度は逆に、ソノの元へ遊びにいくタキヤ。

「水性・ミッドナイト」では墓苑の意の苑(ソノ)だったけれど、ようやく再会したことで昇華。

表-四季-:ハッピーエンド/裏-死期-:逝去

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引用したもの

「水性~」…雨、救急車、傘、扉のノック、ハンバーガーとソーダ、苑宮玲と滝谷の台詞の端々

「ラスト~」…南国リゾート、ラジオ、木更輝星の台詞「アサイーボウルは、マジ神!」

「終わらない」…トンネル、美影の曖昧な記憶、拯の待ち焦がれる気持ち

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(*チラ裏覚書)

わたこは良い女。幸せになって。キャストさんに「幼馴染は事故で亡くし、幼馴染の友人にはフラれて

それでも元気のない彼に何もしてあげられる事ができない彼女つらい」といただいて、想像しました。

登校前にじゃれるような言い合いをした相手が、その日の夜には冷たくなっていて姿も見られない。

笑顔の遺影には見覚えがある。ほんまや、めっちゃつらいやんけ、となったので幸せになって。

個人的に、生まれた時から兄弟のようにソノと育ってきて、小学生の高学年までよく遊んでいて、

異性とはあまりにも近すぎて見られない同士だけど、でもちょっとずつ遊ぶ相手が同性になってきて、

でも学校では「わたこ」「玲ちゃん」と言い合う二人が良いなと思ったけど趣旨が変わるので(笑)

その玲の後ろで、大人しく恥ずかし気に佇んでいた千冬くんに、きっと母性が働いたのでしょう。

なぜソノがタキヤの事をわたこと一緒に迎えに行かなかったのかは、その道は車の通りが多く、

おまけに雨も降りそうだったからで、自分が死んだ日と重なり、死んでもなおまだ怖いから。

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